対応方法

トレントの請求は放置してよい? 高額示談に応じる前に確認すべきこと

ある日、契約しているプロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」という見慣れない書類が届く。あるいは、名前を聞いたことのない法律事務所から、損害賠償を求める通知書が郵送で届く。トレント(BitTorrent)に関するご相談は、たいていこの一通から始まります。

ご相談に来られる方の多くは、まず「これは放置していいのか、それとも今すぐ何十万円か払わないといけないのか」を知りたがります。ただ、トレント案件の実際は、この二択ではありません。放置はおすすめできませんが、届いた直後に高額の示談に飛びつくことが正解とも限らない。書類がどの段階のものか、対象作品や検知記録は何か、今後さらに請求が来る余地があるか、和解で何が片づくのか。これらを確認したうえで方針を決めるのが、結局いちばん負担が少なくなります。

この記事では、放置・高額示談・低額和解・交渉着手という選択肢を、どう見分ければよいかを整理します。

1 まず「どの段階の書類か」を確認する

最初にすべきことは、支払うかどうかを考えることではなく、届いた書類の種類を見分けることです。トレント案件の書類は、大きく三段階に分かれます。

ひとつ目が、プロバイダから届く意見照会書です。権利者側がプロバイダに対して発信者情報の開示を求め、プロバイダが契約者に「あなたの氏名・住所を開示してよいか、反対する理由はあるか」を尋ねている段階です。まだ相手方は、あなたが誰かを知りません。

ふたつ目が、氏名・住所が開示されたあとに、権利者側の法律事務所から届く通知書です。この段階では、相手方はすでにあなたの氏名・住所を把握したうえで、損害賠償や示談を求めてきています。

三つ目が、裁判所から届く書類です。たとえば、損害賠償請求訴訟の訴状・期日呼出状・答弁書催告状などです。これは、法律事務所からの通知書とは意味がまったく違います。期限内に対応しなければ手続上の不利益を受けるおそれがあり、放置の危険度は格段に高くなります。

同じ「トレントの書類」でも、どの段階かによって取れる手も急ぎ具合もまるで変わります。まずここを見誤らないことです。

2 「放置」と「確認したうえで動かない」は別物

ご相談でよくあるのが、「とりあえず様子を見ようと思って」というお話です。ただ、ひとくちに様子を見るといっても、中身は正反対のことがあります。

書類を読まず、期限も確認せず、対象作品も検知日時も見ず、家族が使った可能性も調べないまま何もしない。これは様子を見ているのではなく、ただの放置です。おすすめできません。

これに対して、書類の内容・期限・証拠・請求額・相手方・追加請求の余地を確認したうえで、あえてすぐには高額の示談に応じない、と判断する。これは事案によっては合理的な「待ち」です。

外から見れば同じ「動いていない」状態でも、確認を終えているかどうかで意味はまったく違います。

3 意見照会書を放置するとどうなるか

意見照会書は、発信者情報開示請求という手続の中で送られてくる書類です。現在の発信者情報開示請求は、正式には「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」、一般には情報流通プラットフォーム対処法と呼ばれる法律に基づく手続です。以前は、プロバイダ責任制限法と呼ばれていました。

発信者情報開示関係ガイドラインでは、いわゆるP2P型ファイル交換ソフトを利用したファイル送信による権利侵害についても、特定方法や資料の提出に関する記載が置かれています。

ここで誤解されやすいのですが、意見照会書に回答しなかったからといって、それが直ちに「開示に同意した」ことになるわけではありません。

ただし、何も言わずにいることのリスクは別にあります。発信者情報開示関係ガイドラインでは、発信者から開示に同意しない旨の回答があった場合だけでなく、一定期間、具体的には二週間が経過しても回答がない場合にも、プロバイダは請求者側の資料に基づいて、権利侵害が明らかかどうかの検討を開始するものとされています。さらに、回答がない場合には、不法行為の成立を妨げる事情について、発信者が特段の主張をしないものとして扱われます。

つまり、放置すると、「自分は使っていない」「家族が使ったのかもしれない」「その作品に心当たりがない」「特定方法に疑問がある」といった反論をひとつも伝えないまま、開示の判断が進んでしまう。言い分があるのに言わない、という最ももったいない形になります。

家族・同居人の問題に注意

ガイドラインでも、真に利用したのが家族や同居人である可能性に触れています。「自分には身に覚えがない」と思っても、調べないまま放置するのも、調べないまま「やっていない」と断言するのも、どちらも危うい。心当たりがないときほど、まず家族・同居人の利用可能性を確認すべきです。

4 通知書・損害賠償請求を放置するとどうなるか

氏名・住所が開示されたあと、権利者側の法律事務所から損害賠償や示談を求める通知書が届くことがあります。

この段階の通知書も、回答しなかっただけで支払義務が確定するわけではありません。裁判外の請求である以上、書かれた金額がそのまま法的に確定するわけでも、その額が常に妥当なわけでもない。

ただ、放置を続ければ、相手方が訴訟に踏み切る余地は残ります。さらに、対象作品・検知日時・請求額・回答期限を確認しないまま時間だけが過ぎると、いざ反論や交渉をしようというときに準備が後手に回ります。

ここで一点、技術的なところを補足します。トレントには、ダウンロードしたファイルを同時に他の利用者へ送信(アップロード)する仕組みがあります。本人は「見ただけ」「落としただけ」のつもりでも、実際には知らないうちに配信側に回っており、それが著作権侵害として開示請求や損害賠償の対象になる。この「ダウンロードしただけ」という本人の感覚と、技術的・法律的な評価とのズレが、トレント案件のいちばんの落とし穴です。JAIPA(日本インターネットプロバイダー協会)も、ファイル共有ソフトのこうしたリスクを説明しています。

ですから通知書が届いたときも、「払うか放置か」で考える前に、まず中身を読むことが出発点になります。

5 数十万円の早期示談が、常に正解とは限らない

トレント案件では、相手方から数十万円規模の示談金を提示されることがあります。裁判化を避けたい、家族に知られたくない、早く気持ちの負担から解放されたい——そうした事情があれば、早期の和解に意味がある場合もたしかにあります。

それでも、提示額をそのまま払うことが合理的とは限りません。理由はいくつかあります。

まず、その金額は相手方が望む額にすぎません。著作権侵害の損害額については、著作権法114条に損害額の推定等に関する規定があります。ただし、実際の額は、作品の内容、利用のされ方、販売価格やライセンス料相当額、侵害行為との関係などを踏まえて検討されるべきもので、通知書に書かれた金額を当然に支払うべきとは限りません。

次に、一件の和解ですべてが終わるとも限りません。過去に複数のファイルを扱っていれば、別の作品・別の権利者・別の検知日時を理由に、後日あらためて請求が来ることがあります。一件に高額を払っても、和解の対象が狭ければ追加請求のリスクは残ったままです。

だからこそ、和解では「何について解決するのか」を詰めることが肝心になります。特定の一作品だけなのか、同じ権利者の複数作品を含むのか、一定期間の利用全体を含むのか、将来の請求をしない約束まで含むのか。ここの線引き次第で、同じ支払額でも和解の価値はまるで変わります。逆にいえば、額が低くても対象範囲が明確な和解のほうが、高額でも範囲の狭い和解より価値が高いこともある。

加えて、ログの保存期間も判断材料になります。ただしこれは「待てば消えて安全になる」という単純な話ではありません。すでに開示請求の対象になっているログや、すでに保全・開示された情報は、時間が経っても当然には消えません。ログ保存期間は、いま届いている請求を消すためのものではなく、今後の追加請求の余地を見極めるための事情として捉えるのが正確です。

6 低額和解・交渉着手という、二択の間の選択肢

放置か高額示談か、という両極の間には、現実にはいくつもの選択肢があります。

ひとつは、低額の解決金による和解です。請求額を大幅に下回る金額で、対象作品・対象権利者・対象期間・清算条項がはっきりした和解ができるなら、実務上は十分に合理的な解決になります。金額の安さそのものより、支払額と解決範囲のバランスが取れているかどうかが大事です。

もうひとつが、弁護士が窓口に立って交渉に着手することです。弁護士に頼む=すぐ示談する、ではありません。窓口を一本化して本人が不用意な説明や事実上の自白をするのを防ぐ、対象作品・検知日時・IPアドレス・ファイルのハッシュ値や請求の根拠を確認する、和解の対象範囲を詰める、裁判になった場合の見通しを立てる——交渉に入ること自体に、こうした意味があります。

特に、ご本人が相手方の事務所へ直接電話してしまうと、整理されないまま事実関係を話してしまい、あとの交渉で不利になることがあります。連絡を取る前に、まず書類を確認して方針を決めるほうが安全です。

7 やってはいけない対応

逆に、避けていただきたい対応もはっきりしています。

  • 意見照会書や通知書を読まずに捨てること。書類の種類・期限・対象作品・事件番号を確認できなくなります。
  • 回答期限を見ないまま放っておくこと。期限を過ぎれば、こちらの言い分を伝えないまま手続が進みます。
  • 中身を確認しないまま安易に開示へ同意すること。氏名・住所が相手方に渡り、その後の請求につながります。
  • 相手方の事務所へ感情的に電話すること
  • パソコンやスマートフォンを慌てて初期化すること。利用状況を確認する手がかりが失われます。
  • 家族・同居人に確認しないまま「身に覚えがない」とだけ答えること

どれも、後から取り返しがつきにくい対応です。

8 相談のタイミングと、当事務所の考え方

ご相談はできれば意見照会書が届いた段階が理想です。回答期限が近い、開示に同意してよいか分からない、自分ではなく家族が使った可能性がある、複数の作品で請求されている、すでに損害賠償の通知書が来ている、請求額が数十万円で判断がつかない——こうした場合は早めにご相談ください。裁判所から書類が届いている場合は、裁判外の通知書とは別物ですので、急いで対応する必要があります。

当事務所は、トレントの請求について、高額の早期示談ありきでは対応していません。書類の内容も証拠も追加請求の余地も確かめないまま数十万円を払って片づけることには慎重であるべきだと考えています。一方で、請求額を大きく下回る低額和解で対象範囲を明確にできる場合や、まずは弁護士が窓口に立って証拠と請求根拠を確認する場合には、十分に意味があると考えています。

もうひとつ申し添えると、「すぐには示談せず様子を見る」という方針を採るときこそ、その方針に伴うリスクや他に取れる手を本人が理解したうえで選ぶことが大切だと考えています。結論だけを押しつけるのではなく、いまどの段階にいて、請求額・証拠・追加請求の余地・和解の範囲がどうなっているかを整理し、ご本人が納得して選べるようにすること。これが当事務所の役割だと思っています。

9 まとめ

トレントに関する意見照会書や損害賠償請求の通知書は、中身を確かめずに放置すべきではありません。

ただし、焦って開示に同意したり、提示された金額をそのまま支払ったりすることが、常に正解とも限りません。

まず確認すべきなのは、書類の種類、回答期限、対象作品、検知日時、請求額、証拠、追加請求の可能性、和解で解決できる範囲です。

当事務所では、高額示談ありきではなく、低額和解、交渉着手、待機を含めて、事案に応じた現実的な対応方針を検討します。トレント関連のご相談は初回無料ですので、書類が届いた方は、回答期限が過ぎる前にご相談ください。

トレント問題でお困りの方へ

初回相談は無料です。まずはLINEでお気軽にご相談ください。

LINEで相談する
LINEで相談24時間受付・無料
電話で相談10:00〜19:00